厚芝ひろみ展
Hiromi Atsushiba exhibition
2014年10月9日~18日(正午~午後7時、最終日午後5時まで、日・月曜休)

窓をあけたまま眠るのが、僕にはどうしてもやめられぬ。電車がベルをならして僕の部屋を走りぬける。自動車が僕を轢(ひ)いて疾駆する。どこかでドアの締る音がする。どこかで窓ガラスがはずれる。僕には大きなガラスの破片が哄笑(こうしょう)し、小さな破片が忍び笑いするような気がしたりした。

オーストリアの詩人、リルケの『マルテの手記』(大山定一訳)にこんな一節があります。若手画家、厚芝ひろみはそれを知りませんでしたが、彼女の作品「sleeping girls」(2014年、193.9×130.3センチ、カンバスに油彩)には偶然、ガラスの破片を思わせる形が現れました。別の作品には、とろとろと流れ出る赤い血も見えます。

近作のテーマは心の傷。以前は主に架空の風景を描いていましたが、昨年あたりから人の手や足が画面に出現し、今年、全身のはっきりとした姿が登場しました。「sleeping girls」の中の2人の少女は宙に浮いているのか、床や地面に横たわっているのか。いずれにせよ厚芝が「傷」を表現する上で、風景にとどまらず人の姿を描くのは必然でした。

優しさを感じさせる淡いトーンのベージュにカジュアルな雰囲気を演出する控えめな黄。切なくても暗さはなく、ゆるやかな輪郭線にかたどられた少女たちは絵画空間の中に安住の地を得たかのようです。ガラスの破片は笑っているのか、油絵の具独特の輝きをみせ、作者の複雑な心理をのぞかせます。橘画廊での厚芝ひろみ展は3年ぶり。油彩画の新作十数点を出品します。

厚芝ひろみ(あつしば・ひろみ) 1983年奈良県生まれ。2006年近畿大文芸学部卒、09年鳴門教育大大学院美術コース修了。09年ギャラリー白3(大阪市)、10年GALLERY SUZUKI(京都市)、11年橘画廊(大阪市)、12年Gallery銀座フォレスト(東京)で個展。11年から4年続けて奈良・町家の芸術祭HANARARTに参加(14年は予定)。