Kenji Shibata exhibition Locked in the ether
2014年12月5日~20日(正午~午後7時、最終日午後5時まで、日・月曜休)
紫、ピンク、赤の濃厚な色彩がもたらす幻想的な華やかさとシャープな輪郭が生み出す力強さ。写真家、柴田謙司は、閉じ込められる、時間が過ぎていく、といった「ありさま」を「もの」の姿を借りた比喩によって表現しています。今回の個展で使った「もの」はラナンキュラス、バラ、ヒマワリなどの花と、それらを閉じ込める氷。官能的な色ときらめく光が鑑賞者を主観の世界へと誘います。
柴田は解けていく氷の中の花をさまざまな角度から撮影します。花が氷に閉じ込められている「ありさま」は永遠の現在の比喩です。過去を悔やむこともなく、未来を思いわずらうこともなく、輝かしい今があるだけ。氷に反射する光は紫やピンク、緑などの色面をクリアにし、みなぎる生命力さえ感じさせます。
一方、氷が解けていくさまは時間の経過の比喩です。氷が解けることによって時間が動き出し、現在は次々と過ぎ去っていきます。花たちは氷の拘束から解き放たれますが、刻々と朽ちていきます。命の有限性を自覚するから時間を意識するのか、時間を意識するから命の有限性を自覚するのか。いずれにせよ時間のある世界は死へ向かう世界であることに気づかざるを得ません。
作品である写真には、そうした「時間の経過」の比喩と「永遠の現在」の比喩が同居しています。都会的でスタイリッシュなイメージは鑑賞者を強烈に誘いはしますが、連れていく先を定めてはいないようです。時間は、たとえそれが時計で計測できるものであったとしても客観的なものではなく、人それぞれの感じ方によって変わってくるのではないか。そんな問いを投げかけているようにも見えます。新作の花のシリーズ十数点を出品予定。画像は「11:53:36」(2014年、ラムダプリント、72.1×96.4センチ)。
柴田謙司(しばた・けんじ) 1964年大阪生まれ。93年大阪ビジュアル・コミュニケーション専門学校(現日本写真映像専門学校)卒、97年London College of Printing and Distributive Trades 修了。99年柴田謙司写真事務所を設立。2008年個展「私を知るもの、私を呼ぶもの」(Port Gallery T/大阪)、12年グループ展「光と瞬 vol.4 ~気鋭の写真表現者たち~」(RECTO VERSO GALLERY/東京)。