父という文字の原形

Eisaku Ando Tachibana Gallery 安藤栄作 橘画廊
安藤栄作展 天と地の和解
2011年12月5日~24日(日曜・祝日休)

展示室にヒノキの香りが立ち込めています。安藤が今回の個展に出品した木彫は、高さ2メートル数十センチのシリーズ「天と地の和解」5点をはじめ14点。すべて東日本大震災の後の作品ですが、このうち「天と地の和解」2点を含む5点は11月後半以降に完成した、できたてのほやほや。斧の刃の跡も新鮮です。

大作は屋外で制作します。アトリエのある奈良県明日香村は晩秋ともなれば冷え込みますが、斧を振るたびに体が温まり、上半身はシャツ一枚に。汗をかいたらタオルで素早く拭き取り、彫刻を眺めます。手斧一本での制作を始めて20年以上。「調子の良いときは自分が宇宙のエネルギーの通り道になって自然と手が動く」と言います。

いつごろだったか、文明が発展すれば農業も工業も機械が担うようになり、人間は肉体の労働から解放されると言われたことがありました。たしかに肉体の労働は減ったのでしょうが、身体性は人間の尊厳にとって大切なものであることもわかってきました。斧で何度も何度も木をたたく安藤は全身で人間の尊厳を保とうとしているかのようです。

彼はエッセイ集「降りてくる空気」(スモルト)の中で、子供が2人いるというのに父親としての自信が持てず、劣等感を抱いていたと明かしています。しかしある日、テレビで文字の意味を教える番組を見て、「父」の字がもともとは斧を持つ人の姿を表していたと知りました。「おれは毎日斧を手に仕事をしている。おれこそ父という文字の原形を地でいっている人間だ」。以来、斧を手に取ると、父としての自覚がみなぎるそうです。
(月~金曜午前11時~午後7時、土曜正午~午後5時)