被災建築物の保存を考える


宮本佳明展に向けて
 

3月に展覧会を開く建築家の宮本佳明は、ある被災建築物の保存、活用方法を提案します。広島の原爆ドーム、独ドレスデンのフラウエン教会(写真)など被災建築物の扱いにはいくつかのパターンがありますが、宮本は従来にない方法を考えました。その方法を明らかにする前に、歴史上の被災建築物の保存方法をおさらいしてみます。

まず日本で有名なのは、世界遺産に登録された広島の原爆ドームでしょう。第2次世界大戦末、原子爆弾によって被爆した広島県産業奨励館(原爆ドーム)は全焼。残骸を残すか取り壊すか議論がありましたが、1966年、広島市議会が原爆ドーム保存の要望を決議し、悲惨な出来事の象徴として保存されました。

18世紀前半の建築物であるフラウエン教会も、被災時のままの凍結保存が半世紀近く続きました。1945年2月13日、ドレスデンは英空軍の爆撃を受け、市域の75%が破壊。その中で市民は同教会の瓦礫(がれき)の山から再利用できる石材の選別作業を始めましたが、東独政府は「主としては費用がないため、またひとつには『資本主義の文化破壊の暴挙』の宣伝のため」(高橋哲雄「ドレスデンとコヴェントリ」(大阪商業大学商業史博物館紀要第5号)、復元を認めませんでした。

しかし89年のベルリンの壁崩壊後、復元へと方針が変わり、2005年に完成しました。建物には、瓦礫の山から拾い出され、かつての位置を突き止めた黒い石材と新しい石材が混ざっています。高橋によると、同教会の復元には、再統合されたヨーロッパの民族の和解の象徴という位置づけもありました。

一方、01年の米同時多発テロで倒壊したワールドトレードセンターの跡地、グラウンド・ゼロでは、高さ1776フィート(541メートル)の1WTCを含む超高層ビル群と記念碑の建設が進んでいます。凍結保存、復元、改築。さて、宮本の案は……。(2012年2月4日)