芝田知佳展 La Mer Hotel Ebi

Chika Shibata La Mer Hotel Ebi Tachibana Gallery
Chika Shibata exhibition  La Mer Hotel Ebi
2014年7月12、13日、ホテルグランヴィア大阪6036号(ART OSAKA 2014) 

人の名前や地名など事実に関する記憶には正解があり、意識的に想起することができます。忘れたとしても、調べ直すことができるでしょう。しかし、いつ、どこで、何が起こったかといったエピソードの記憶は、ひとたび忘れてしまえば思い出すのが容易ではなく、想起したとしても歪曲される可能性があります。

実体験の記憶でさえ歪(ゆが)められるのだとすれば、対象のない知覚である(睡眠時の)夢の記憶は、記憶というにはあまりにも心もとない心理的経験なのかもしれません。芝田知佳はそうした非合理な「夢の記憶」を色や形に変換し、シルクスクリーンや染色などの技法を使って表現しています。

大きな地震が発生したにもかかわらず、何ごともなかったかのようにテーマパークのアトラクションが動き続けていた――。彼女はそんな夢を見たことがありました。視覚情報でもない、頭の中の出来事にからむ「あいまいなのに妙にリアルな感じ」。なぜかそこから、抽象模様である斜線とゆがんだチェック、そしてほぼ唯一の具象的イメージであるエビの群れが浮かんできました。

ART OSAKA 2014で個展形式で発表する「La Mer Hotel Ebi」はホテルの客室空間そのものが作品。芝田は、海沿いにある客室数20程度の小さなホテルの一室を思い描き、カーテンやベッドカバー、ランプ、カップなどをつくりました。非合理主義のシュルレアリスム(エビ)と合理主義の抽象的空間(斜線、チェック)。それらの対立がもたらす軽やかな不協和音が宿泊者を記憶の迷宮へと誘います。写真は「La Mer Hotel Ebi(部分)」。

芝田知佳(しばた・ちか) 1984年兵庫県生まれ。2007年女子美術大芸術学部卒、09年東京芸術大大学院美術研究科修了。13年橘画廊(大阪市)で個展「YY/MM/dd」